2021/04/12
十代の頃、ただでさえ数学が苦手だったのに
ある年の担当が 何を言ってるのかよく分からないモゴモゴした話し方のおじいちゃんで 授業が本当に退屈だった
しかし寝てしまうと当てられ 答えられないような難度の高い質問をされてネチネチ嫌味を言われる
つらい… 眠気と戦わずに済む方法ってないのか…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
やがて私は 友達との雑談中にウケた話を膨らませてノートに書くようになった。
当時人気の有名人を登場させて
『もし彼がこの学校の生徒だったら…』という内容の話を書いていた 今で言う妄想小説である。
と言っても恋愛系ではなくお笑い寄りの軽い話
その頃の私はギャグマンガ「パタリロ!」が好きだったのだ。
書いてる時間はとても楽しく、数学の授業で眠気を感じることも無くなった笑
恐る恐る友達にノートを渡して読んでもらうと
「何これ面白い!ちょっと○○ちゃん、コレ読んでみてー」と他の友達にまで回された
そんな感じで読者が増えて、普段あまり喋らない子にまで広がり
多い時で10人以上の女子が読んでくれていた。
(交換日記なんて物もあったし スマホのない時代の娯楽ってほのぼのしてていいですね)
「続き書いたよ」と伝えて「やったー」と言いながらノートを広げてもらうのが嬉しくて 結構張り切って次の話を書いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、この盛り上がりを見て「だったら私も」と思う女子が現れた。
Mさんという同じクラスの子で 見た目は大人しいが
仲間といる時はテンション高めで笑ったり ズーンと落ち込んだりして感情の揺れが大きそうなタイプ
Mさんは『もし彼がこの街に住んでいたら』という設定で人気有名人が登場する小説をノートに書き
友達に見てもらうという、私がしていたことをそっくりそのまま真似するようになった。
私の場合は他のクラスの友人も含めて 広く浅く楽しんでもらっていたけど、
Mさんは主に4〜5人の友人で固まり 自分たちの世界で盛り上がるという感じ
特にMさんの親友のSさんは
「Mちゃんのお話、本当に感動する!Mちゃんはきっと本出せるよっ」とベタ褒め
「え〜そうかなぁ、じゃあデビューの時は○○ってペンネームにしようかな」とすっかりその気のMさん
彼女のお話を一度だけ読ませてもらったことがある
「私の心の宝石箱にはキラキラした想い出が〜」みたいな夢見る少女の花畑小説という感じ
ノートの最後には
『私たちはこれからもずっと心友☆M・S・□美・□香』と書いてあり結束の強さを物語っていた。
心友… 親友より強い絆を表現してるつもりなんだろう、乙女チックだなー
Mさんの浮かれぶりを見て
“あの人周りから褒められてていいなぁ 私もイイ思いしたい”とばかりに そのまんまこっちの真似をするなんて単純だな〜と思ったけど
しょせん私も内職でやってるだけなので怒るほどでもなかった。
Mさんは仲間に褒められてさらにやる気になり、
新しいお話を書いては回覧を私より頻繁にしているようだった。
私は相変わらず 数学とか苦手な授業の時だけマイペースで書いていた(勉強しろよ自分…)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ある日の午後
ホームルー厶で話し合いをしていた。
解決しなければいけない問題について決めていて
割と深刻なムードだった。
前に立った室長が いくつか出た意見を何とか全員が納得する形にまとめようと苦心しながら、黒板に提案を書いていく。
突然 担任の先生の厳しい声が飛んだ
「Mさん!今 何をする時間か分かっていますか」
みんなが一斉に振り返る
Mさんは例の『お話ノート』を書いていたのだ。
先生はノートを取り上げ、あなたはこの件はどうでもいい問題だと思っているのか?
クラスの一員としての自覚はあるのか?と叱責した
Mさんは涙を浮かべながら「すみませんでした」とうつむいていた。
みんなが真面目に意見交換をしていた時だけに、
クラス全員がMさんに冷たい視線を送っていた。
下校する頃
Mさんの周りには仲間が集まって 慰めたり一緒に泣いたりしているのが見えた。
声を掛ける隙もないくらい『心友』メンバーで固まっていたので、私は何も言わずに教室を出た。
「ノートは後で職員室に取りに来なさい」と先生は言ってたけど
あの雰囲気だと ぞろぞろと連れ立って行ったのだろう
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日からMさんが『お話ノート』を持ってくることはなくなった。
彼女たちが『お話』について話題にすることもなくなった。
私は Mさんのノート没収事件以降も変わりなく、
始めた頃と同じペースで小説を書いていた。
しかしMさんは 私だけが書き続けていることが気に入らないようだった。
何かを受け取るため教室内で並んでいて、すぐ後ろに私がいるのに気づくと 列を離れて並び直すなど
私を嫌っていることを露骨に態度に出していた。
「できたよー」「わーい 待ってたよ」という会話と共に友人にノートを渡していると
MさんとSさんが恨みがましい目つきで私を見ていたこともあった。
“こっちは書くのを止めたんだからアナタも自重しなさいよ”と言いたかったのかも知れない。
私には関係ないので、と心の中で返事する
“私はMさんがいてもいなくても書いてたんだし
Mさんに書いてみたらと勧めたこともない。
そちらが勝手に真似して調子に乗って
やらかしただけですよね?”
それに本当にお話の創作が好きなら おだててくれる仲間がいなくても書くことはできる
そういう部活も同人誌もあるのだから。
そういう地味な活動をせず 注目されてる人の真似だけしてたということは、
創作意欲なんか無くて 仲間うちで一目置かれるのが気持ち良かっただけということだろう。
春が来て クラスが変わってしばらくするとMさんら4人の『心友』の絆は意外と脆いことが分かった。
校内でも校外でも一緒にいる所を全く見なくなった。
廊下を歩くMさんと、新しい友達とキャッキャしているSさんがすれ違うとき
挨拶すらしないのを見て「あんなに仲良しアピールしてたのは何だったんだろう?」と思った。
◾5年10年といった長い関係でもないのに 簡単に
「□子は私の親友だから」などと言う女子が私は苦手で、今でも何となく信用できない
苦手になったのは、この時のことが原因かも知れない。
[追記]
たくさんの方にお読みいただき ありがとうございました
良かったらランキングボタンか拍手ボタンを
押していただけると励みになります♪
